債権とは
将来のキャッシュフローが確定している有価証券
一定期間度に元本と利息が支払われることを約束している
ローンとの違い
債権は流通市場にて市場価格で売買される
問題
3年満期、クーポンレート5%(年1回利払い)、額面100円の利付債の価格を求めよ。
ただし、安全資産の1年複利は8%とする。
<n年満期、1/m年複利の現在価値の公式>
m = 付利回数/年
n = 満期年数
ただし
c:クーポンレート C:クーポン額
Discount Factorに書き換えると
=5/(1+0.08) + 5/(1+0.08)^2 + 105/(1+0.08)^3
=92.27円
問題
3年満期、額面100円の割引債の価格を求めよ。
ただし、安全資産の1年複利は5%とする。
※割引債は、満期までにCFは発生しない。
<割引債価格の公式>
=100/(1+0.05)^3 =86.38円
◆額面1円、満期n年の割引債価格は、n年のDFと同じ
1DF(n)
◆利付債価格の各項は、割引債価格の公式と同じなので、
利付債価格は、額面CおよびC+100の割引債の合計と同じ
◆したがって専門的には
債権といえば、額面1円の割引債(すなわちDF)を考えることが多い
◆ただし実際の金融市場でデータが取得できるのは利付債価格であることが多い
◆償還時の償還差損益(満期まで保有した場合)
◆売却損益(途中で売却した場合)
◆クーポン収入(利付債)
◆受け取ったクーポン額の再投資による利息収入(孫利)
直接利回り(直利)
インカムゲインの割合を示しているが、キャピタルゲインは含まれていない
例題
3 年後満期、クーポンレート8%(年1 回利払い)、額面100 円の債券を105 円
で購入したときの直接利回りを求めよ。
直接利回り = 8円 ÷ 105円 =7.6%
単利最終利回り(日本式単利)
P:債券価格
C:年間クーポン収入
n:残存年数
インカムゲインとキャピタルゲインが考慮されている
例題
3 年後満期、クーポンレート8%(年1 回利払い)、額面100 円の債券を105 円
で購入したときの単利最終利回りを求めよ。
単利最終利回り =8円+(100円-105円)÷3年/105円 =6.03%
複利最終利回り *
n年後満期の利付債の複利最終利回りは、次式のyである
P:債券価格 C:年間クーポン収入 n:残存年数
※計算が複雑だが2年満期であれば2次方程式の解の公式で解ける。
例題
2 年後満期、クーポンレート5%(年1 回利払い)、額面100 円の債券を98 円
で購入したときの複利最終利回りを求めよ。
(1+y)をYと置く。
98Y -5Y-105=0 をYについて解く
Y=1.0609 y=Y-1なので =6.09%
所有期間利回り
債権を購入して満期を待たずに売却した際の利回り
<1年後に売却した場合の公式>
P:債券購入価格
S:債券売却価格
C:年間クーポン収入
例題
2 年後満期、クーポンレート2%(年1 回利払い)、額面100 円の債券を99.04
円で購入し、1 年後に100.49 円で売却したときの所有期間利回りを求めよ。
2円+(100.49-99.04)/99.04 = 3.48%
実効利回り
満期時点の将来価値の年間利回り(キャピタルゲインは考慮してない)
実効利回りとは次式のR
P:債券価格 C:年間クーポン収入 r:クーポンの再投資の1年複利
◆金利と債券価格は逆の動きをする(金利が上がれば、債券価格は下がる)
再掲
金利(r)はすべて分母にある。分母が大きくなれば全体、つまり債券価格(P)が小さくなる
<用語>
【パー】 :債券価格(P)が額面100円に等しい
【オーバーパー】:債券価格(P)が額面100円を上回る
【アンダーパー】:債券価格(P)が額面100円を下回る
【パーレート(パーイールド)】:債券価格(P)が額面100円となるようなクーポンレート
◆パーレートと金利(r)は等しい
合理的・効率的な債券市場
スポットレート:
n 年満期の割引債の複利最終利回りをn 年のスポットレート、もしくはゼロレートという
を満たすyが 割引債の複利最終利回り
以降では、n年のスポットレートを rn と記載する
例題
前述の仮定の下で、4 年満期、クーポンレート2%(年1 回利払い)の
利付債の価格はいくらか?
<スポットレートによる利付債価格の公式>
<スポットレートによる割引債価格の公式>
例題
1 年のスポットレートが10%、2 年のスポットレートが11%、3 年のスポット
レートが12%のとき以下の問いにこたえよ。
問題意識
現時点で1年間のスポットレートが10%、2年間のスポットレートが11%のとき、
1年後からの1年間のスポットレートは何%であるべきか?
債券市場が合理的で裁定取引が生じ得ない状況であるなら
下記の2通りの運用は等しくなるはず。
運用①:最初の1年は、r1=10%、次の1年はX%で運用
将来価値 = (1+r1)(1+X)
運用②:2年間通して、r2=11%で運用
将来価値 = (1+r2)^2
(1+r1)(1+X) = (1+r2)^2
X = (1+r2)^2/(1+r1) -1 = 12% ⇐これが合理的な2年目の値
このような条件を満たす将来金利(nfn+1)を n年後スタートの1年フォワードレートという
つまり
割引率による表現
例題
1 年スポットレートが10%、2 年スポットレートが11%のとき、
以下の手順で 1 年後スタートの1 年フォワードレート1f2 を求めよ
手順
① 1 年満期の割引率DF(1) と2 年満期の割引率DF(2) を求めよ
② 割引率を用いてフォワードレート1f2 を求めよ
回答
① DF(1)= 1/1.1 =0.909
DF(2)= 1/1.11^2 =0.812
② 0.909/0.8116-1 = 12%
金利の期間構造とは、残存期間と金利の関係。
イールドカーブ(利回り曲線)とは、金利と残存期間の関係を示すグラフ。
(縦軸に金利、横軸に残存期間)
※順イールドであることが多い
【パラレルシフト】:イールドカーブが平行に移動すること
【フラットニング】:イールドカーブの傾斜が平たん化すること
【スティープニング】:イールドカーブの傾斜が急になること
【カーバチャー(曲率)の変化】:イールドカーブの曲がり具合の変化のこと
純粋期待仮説
フォワードレートは将来のスポットレートの期待値であり、
長期金利は将来の短期金利の期待値の平均であるとする説。
⇒説明できないものが多い。例えば中央銀行の金融政策の変更がなくても
順イールドであることが多いこと。
流動性プレミアム仮説
長期投資は、短期投資に比べて流動性リスクが大きいので、
長期金利にはリスクプレミアム(流動性プレミアム)が付いているという説。
⇒実際のイールドカーブが順イールドであることが多いことと整合的。
市場分断仮説
債券市場は、投資家および発行者の固有の事情により、満期ごとに分断された状態で成立し、それぞれの市場ごとの需給関係で利回りが決定されるという説。
⇒中期の債権の投資家: 銀行
長期の債権の投資家: 生命保険、年金
購入する事情が異なる ⇒ 需給が異なる ⇒ 金利が異なる
純粋期待仮説と流動性プレミアム仮説は相反する内容
市場分断仮説は独立した内容
今日の解釈:流動性プレミアム仮説と市場分断仮説が交わった状態である
「割引債」と「高クーポンレート利付債」と「低クーポンレート利付債」
では複利最終利回りのイールドカーブはどちらが高いか?
順イールドのとき
「割引債」>「低クーポンレート利付債」>「高クーポンレート利付債」
逆イールドのとき
「高クーポンレート利付債」>「低クーポンレート利付債」>「割引債」
フラットのとき
「割引債」=「高クーポンレート利付債」=「低クーポンレート利付債」
「スポットレート」「フォワードレート」「パーレート」では
イールドカーブはどのような順序で高いか?
順イールドのとき
「フォワードレート」>「スポットレート」>「パーレート」
逆イールドのとき
「パーレート」>「スポットレート」>「フォワードレート」
フラットのとき
「フォワードレート」=「スポットレート」=「パーレート」
スポットレートの有用性
・スポットレートのイールドカーブが得られれば、フォワードレートのイールドカーブも求まる。
・同様にスポットイールドが得られれば、パーイールドも求まる
ブートストラップ法
スポットレートを利付債価格から求める方法をブートストラップ法という。
求めたい値が複数ある状態で、1つ目の値が決まると、それを利用して2つ目の値が決まるというように順々に値が決まるような計算アルゴリズムの総称。
例:債券市場での観測値
利付債A 残存年数1 年、クーポンレート2.0%、価格99.51 円
利付債B 残存年数2 年、クーポンレート3.0%、価格100.96 円
利付債C 残存年数3 年、クーポンレート8.0%、価格114.14 円
(問題) 1 年、2 年、3 年のそれぞれのスポットレートを求めよ
3年のスポットレートの計算
これをr3について解く
例題
1 年、2 年、3 年のスポットレートがそれぞれ2%、3%、4%であるとき、
期間3 年のパーレートc はいくらか?
※パーレートの定義より
パーレートの公式
小文字のcは、クーポンレート
各年の割引率を計算して左に代入する
ここでいう債券投資のリスクとは、投資期間中のリターンが期待どおりに実現されない可能性のことをいう
価格変動リスク (狭義の金利リスク) |
金利の変化によって債券価格が変動するリスク |
再投資リスク | 金利の変化でクーポン収入が期待どおりの利回りで運用できないリスク |
デフォルトリスク (債務不履行リスク) |
債券の発行体が金利や元本の支払いを履行できなくなるリスク |
途中償還リスク | 満期前の途中で元本が償還されてしまうリスク |
流動性リスク | 市場での取引が枯渇し、思い通りに売買できなくなるリスク |
債券価格と金利の動きは反対の関係にある
利回り(スポットレート)が上昇するほど、債券価格は下落する
利回り(スポットレート)が低下するほど、債券価格は上昇する
残存期間2 年、クーポンレート5%で、スポットレートが5%から7%に上昇したら
債券価格はいくら変化するか? 利付債価格の公式を参照。
残存期間が長い債券ほど、価格変動リスクが高い
残存期間が長いほど、金利変化に対する債券価格変化は大きい
残存期間が短いほど、金利変化に対する債券価格変化は小さい
クーポンレート5%、額面100 円の利付債で
スポットレートが5%のときの残存2 年と3 年の債券価格を求めよ
スポットレートが7%のときの残存2 年と3 年の債券価格を求めよ
2 年債と3 年債ではどちらの価格が大きく下落したか?
クーポンレートが低いほど、金利変化に対する価格変動リスクが高い
クーポンレートが高いほど、金利変化に対する債券価格変化率は小さい
クーポンレートが低いほど、金利変化に対する債券価格変化率は大きい
デュレーションは、金利r と債券価格P の関係を線形に表すことで直観的にわかりやすい計算方法を提供する。金額デュレーションは金利に対する債券の価格感応度を測る指標
・債券価格と利回りの関係は、右下がりの曲線。
・現在のスポットレートと価格に接する直線を引く。
・接線の傾き、すなわち比例定数を求める。
・比例定数と金利変化幅を掛け算することで債券価格変化額がわかる
現在の利回りの変化幅をΔr とし、このときの債券価格の変化額をΔPとしたとき、
利回りの変化幅に対する債券価格の変化額の比が前頁グラフの接線の傾き(比例定数)であり、
これにマイナスを付けたものを金額デュレーションという
⇐金額デュレーションの求め方
⇐金額デュレーションを利用した
利回りの変化に対して、債券価格がいくら変化したかを求める
金額デュレーションの性質
・金額デュレーションは正値
・金額デュレーションは金利に対する債券の価格感応度を測る指標
・同じクーポンレートであれば、残存期間の長い債券の方が金額デュレーションが大きい
・現在の金利水準r が変化すれば、金額デュレーションも変化する
金利上昇(債券価格下落)すると金額デュレーションは小さくなる
金利低下(債券価格上昇)すると金額デュレーションは大きくなる
金額デュレーションの利点
・簡単に金利変化に対する債券価格の変化が計算できる
・債券価格と金利の関係を直観的にイメージできる
・複数の債券に対する価格変化も容易に計算できる
(金額デュレーションを合計してΔrをかける)
金額デュレーションの欠点は?
あくまで近似値であり、正確ではない。
信用リスク(credit risk):
債券の元本や利息(クーポン)の支払いが滞ったり、支払い不能が発生する可能性を指すリスク。
信用リスクをデフォルトリスク(倒産リスク)ともいう。
債券の元本や利息が約束どおり支払われる確実性が高い(低い)ことを信用力が高い(低い)という
国債:risk-free bond 若しくはnon-defaultable bond(無リスク債券)
社債:defaultable bond(デフォルト可能債券)
◆外部格付け
信用格付けの専門会社である格付機関が付与する格付け
【債券格付け】:債券の個別銘柄に対して付与される信用格付け
・【長期債格付け】:満期が1 年以上の債券を対象とする信用格付け
・【短期債格付け】:満期が1 年未満のCP などを対象とする信用格付け
【発行体格付け】:債券の発行体に対して付与される信用格付け
【ソブリン格付け】:国や国際機関などが発行する債券の信用格付け
その他に【カウンターパーティ格付け】や銀行の預金支払い格付け、
生保の【保険支払い格付け】などがある
◆内部格付け
投資家自身が何らかの方法で自主的に付与する信用格付け
◆代表的な格付機関
国内格付機関
格付投資情報センター(R&I)、日本格付研究所(JCR)
海外格付機関
スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)、ムーディーズ(Moodys)、
フィッチ・レーティングス(Fitch)
◆格付機関の格付け方法
【依頼格付け】:発行体からの依頼により、財務情報などの公開情報と
内部情報のヒアリングに基づいて付与した格付け
【勝手格付け】:発行体の依頼によらずに、財務情報などの公開情報のみに基づいて付与した格付け
【試行】:前もって結果の決まっていない現象の観察や実験のこと
ただし、確率論では、起こり得る結果の全体は前もって分かっているとしている。
【標本空間】:起こり得る結果の全体のこと<大> サイコロの{1,2,3,4,5,6}
【事象】:標本空間の部分集合<中> サイコロの奇数が出る事象はf{1,3,5}
【根元事象】:1 つ1 つの結果<小> サイコロの1,2,3,4,5,6
例題:コインを2 回投げて表と裏をみる試行するとき、以下の問いに答えよ
① このときの標本空間と根元事象を書け
標本空間:{HH,HT,TH,TT} 根元事象:HH,HT,TH,TT
② 1 回目が表、2 回目が裏となる事象を書け
{HT}
③ 少なくとも1 回は表が出る事象を書け
{HH,HT,TH}
【確率】とは、事象の起こりやすさを表す数値
事象A が起こる確率をp(A) と書くことにする
確率p は以下の性質を満たす
1. p(標本空間) = 1
2. どんな事象A に対しても0 ≦ p(A) ≦ 1
3. 互いに排反な2 つの事象A とB に対して p(A∪B) = p(A)+p(B)
例題:コインを2 回投げて表と裏をみる試行するとき、以下の問いに答えよ
標本空間:{HH,HT,TH,TT}
① 1 回目が表、2 回目が裏となる確率は?
p({HT})=1/4
② 2 回目に表が出る確率は?
p({HH,TH})=1/2
③ 少なくとも1 回は表が出る確率は?
p({HH,HT,TH})=3/4
偏りのないコインの裏が出る確率は1/2 と事前にわかっているが、
会社が倒産する確率などは事前にはわからない。このようなとき、
過去データに基づいて、母集団の中からある事象となったものを数え上げて、
その事象の確率とする。これを経験確率とよぶことにする。
500 社の企業を母集団として1 年間調査したら、5 社が倒産した。
1 年間に企業が倒産する確率はp(倒産する) = 5/500 = 1%
1 年間に企業が倒産しない確率はp(倒産しない) = 495/500 = 99%
またはp(倒産しない) = 1ーp(倒産する) = 1-1/100 = 99%
例題:100 社の企業を母集団として2 年間調査した結果、1 年目に5 社、2 年目に2 社
倒産したとき、以下の問いに答えよ
① 2 年間で企業が倒産する経験確率(累積デフォルト率)を求めよ
(5+2)/100 = 7%
② 2 年間で企業が倒産しない経験確率(累積生存確率)を求めよ
(100-5+2)/100 = 93%
③ 1 年目以降、2 年目までに倒産する確率を求めよ
2/95 = 2.11%
確率変数とは、確率的な試行したとき、得られた根元事象に対して得点をつけることがよくある。
この根元事象に対して数値を与えるルールを確率変数という。
このルールのことを数学の言葉では関数というので、
確率変数とは、根元事象に数値を与える関数である、といえる。
例)サイコロを1 回振ったとき、奇数なら1、偶数なら0 というルールX を課す
この得点は、X(1) = X(3) = X(5) = 1、 X(2) = X(4) = X(6) = 0
試行前にはX、試行後の得点結果にはxj ; (j = 1;2; : : : ;6) と記すことが多い
この例だと、x1 = x3 = x5 = 1、 x2 = x4 = x6 = 0
得点のルール(確率変数)はいろいろ設定できる
例題1)サイコロを1 回振って、出た目の逆数が得点となるルールのとき、
この確率変数X の対応をすべて書き出しなさい
x1 = 1 , x2 = 1/2 , x3 = 1/3 , x4 = 1/4 , x5 = 1/5 , x6 = 1/6
例題2)コインを2 回投げて、表の出た回数の合計が得点となるルールのとき、
この確率変数X の対応をすべて書き出しなさい
xHH = 2 , xHT = 1 , xTH = 1 , xTT = 0
例題3)会社が倒産しなければ100 円貰え、倒産したら40 円しか貰えないルールのとき、
この確率変数X の対応をすべて書き出しなさい
x倒産しない=100 , x倒産する=40
期待値とは、確率的な試行したとき、平均的に期待される得点のことを期待値という。
数学の言葉でいうと期待値とは、確率変数X の平均的に期待される値であり、
E[X] と書き、次式で計算される。
E[X] = p1x1+p2x2+・・・+pnxn
ここで、xj ; (j = 1; : : : ;n) は確率変数のn 個の結果(得点)、pj ; (j = 1; : : : ;n) は得
点xj が出る確率
例題1)サイコロを1 回振って、出た目の逆数をとる確率変数X の期待値を計算せよ
E(X)=(1/6×1) + (1/6×1/2) + (1/6×1/3) + (1/6×1/4) + (1/6×1/5) + (1/6×1/6)
=0.408
例題2) コインを2 回投げて、表の出た回数の合計が得点となる確率変数X の期待値を計算せよ
E(X)=(1/4×2) + (1/4×1) + (1/4×1) + (1/4×0)
=1
【累積デフォルト率】:同じ格付けの債券の発行体が一定期間内に
累計でデフォルトする確率である。(デフォルトの経験確立)
【累積生存率】:同じ格付けの債券の発行体が一定期間内にデフォルトしない確率。
(生き残りの経験確立)
以前は、累積デフォルト率や累積生存率を算出するために経験確率を使うことが多かった。
(具体例)
【格付推移確率】:ある格付けの債券の発行体が一定期間内に「別の格付けに移る」、
「デフォルトする」、もしくは「同じ格付けで留まる」経験確率。
【格付推移行列】:格付推移確率を行列表示したものをという。
(具体例)
AA 格付けの発行体50 社のうち、5 年後に以下のようになった。
5 年間の格付推移確率はそれぞれ
AAA になったのは2 社、 AA→AAA 2/50=4%
AA で留まったのは40 社、 AA→AA 40/50=80%
A となったのは4 社、 AA→A 4/50=8%
BBB となったのは4 社、 AA→BBB 4/50=8%
BB 以下となったのは0 社 AA→BB以下 0/50=0%
【デフォルト時刻】:社債を発行している企業が倒産する時刻(確率変数)
【回収率】:社債がデフォルトした場合に額面に対して回収できた金額の比率
【損失率(loss given default、LGD】:損失率= 1-回収率
社債がデフォルトした場合に額面に対して損を被った金額の比率
【無リスク金利(risk-free rate)】:国債など信用リスクのない資産の利回り(スポットレート)
問題)
ある企業の2 年満期の割引社債を考える。満期までのデフォルト確率が2%、
デフォルトしたときの回収率が60% のとき、割引社債の現在価値はいくらか?
ただし、2 年の無リスク金利を3%とする。
◆デフォルト可能債券は、デフォルトするor しないでそのキャッシュフローが
異なるという不確実性がある
◆不確実な将来のキャッシュフローは確率変数と考えることができる
◆デフォルト可能な割引債の価格評価は、キャッシュフロー(確率変数)の
期待値を無リスク金利で割引くことで求められる
キャッシュフローの期待値E[X] を
期待キャッシュフローという
ただし、より厳密には以下の不確実性もあるが、モデルの単純化により今回は捨象する
これらは事前に不明なのですべて確率変数。
・回収率が何%であるか?
・デフォルト時刻がいつの時点になるか?
・デフォルトしたときに回収金額が得られるタイミングは?
問題の解答)
・将来のキャッシュフローX のとる値
デフォルトする X1=100円 デフォルトしない X2= 60円
・社債のデフォルト確率
デフォルトする確率 P1=2% デフォルトしない確率 P2=98%
・期待キャッシュフロー
E[X] = P1X1+P2X2 = 98%×100円+2%×60円=99.2円
・割引社債の価格
E[X]/(1+r2)^2 = 99.2円/1.03^2 = 93.51円
右の式を満たす α を
クレジットスプレッドという
・クレジット・スプレッドは、社債の信用リスクに対するリスク・プレミアム
・信用力が高い社債のクレジット・スプレッドは小さい
・信用力が低い社債のクレジット・スプレッドは大きい
・額面100 円と無リスク金利rn が与えられているとき
→クレジット・スプレッドが観測できれば社債価格がわかる
→社債価格が観測できればクレジット・スプレッドがわかる
問題)
2 年の無リスク金利が2%のとき、以下の問いにこたえよ
① クレジット・スプレッドが5% のとき、2 年満期の割引社債の価格を求めよ
100/(1+2%+5%)^2 = 87.34円
② 2 年満期の割引社債価格が89 円のとき、クレジット・スプレッドを求めよ
89円=100/? ?=1.1236
1.1236=(1.02+α)^2 1.06=1.02+α α=1.06-1.02
回収率をδ 、デフォルトしない確率を p とすると
デフォルトする確率は1-p
期待キャッシュフロー E[X] = p×100+(1-p)×100×δ = 100{p(1-δ)+δ}
したがって次式が成り立つ
重要ポイント
無リスク金利rn が既知のとき、
次の3つのうち2 つの値がわかれば、
残りの1 つの値が公式(1) で計算できる
・社債価格P
・デフォルト確率(1-p) or p
・回収率δ
例題)
2 年の無リスク金利が2%のとき、以下の問いにこたえよ
・2 年満期の割引社債の価格が80 円、回収率が0%のとき、この社債がデフォルトする確率を求めよ
割引社債価格公式に当てはめて
80円=100p/(1+2%)^2 100p=83.232
p=83.232/100 p=0.8323 ←これがデフォルトしない確率
1-p = 16.8% ←デフォルトする確率
このように、割引社債価格と回収率の値を公式(1) に代入して得られたデフォルト率を
インプライド・デフォルト率(implied default probability)という。
経験的デフォルト率とインプライド・デフォルト率の違いに注意!