株式(equity、stock)とは
投資家からみると、配当という不確定なキャッシュフローを受取るための有価証券。
(ここでは、単純化のために残余財産の分配権と株主議決権の価値を捨象する)
債券とは異なり満期や元本償還はない
株式の投資収益率(return)は、投資期間中に得られる配当(income gain)と
株価の値上り益(capital gain/loss)を現在の株価で割ったものである
r :1 年間の株式投資収益率
P0:現在の株価
P1 :1 年後の株価
D1 :1 年後にもらえる配当
1年後の投資収益率は現時点ではわからないため
1年後の株価P1 と配当D1 を期待値として予想し、投資収益率を求める
期待収益率(必要収益率、要求収益率)
例題)
現在の株価が500 円、1 年後の予想株価が550 円、1 株当たりの予想配当が25円のとき、
この株式の1 年間の期待収益率を求めよ。
(25円+550円-500円)/500円 = 15%
配当割引モデルは、将来得られる配当の期待値(期待キャッシュフロー)を
期待収益率で割り引いた現在価値として、現時点の株価P0 を評価する理論モデルである
※売却する場合でも配当割引モデルは有効
ゼロ成長モデルは、配当割引モデルを(単純化のために)配当が常に一定額D であるとしたモデルである。株価評価公式はシンプルである。
P0:現在株価
D:配当
r:この株式の期待収益率
例題)
ゼロ成長モデルにおいて、1 株当たりの配当が30円で毎年同額のとき、以下の問いにこたえよ
① 期待収益率が5%のとき、株式の現在価値を求めよ
30円 / 0.05 = 600円
② 株価が300 円のとき、株式の期待収益率を求めよ
300円 = 30円/r → r= 10%
配当割引モデルで(単純化のために)配当が一定の成長率g で増加するとしたモデル。
ただしr>g
g:配当の成長率
例題)
定率成長モデルにおいて、1 年後の1 株当たりの配当が30 円でその後の配当成長率が3%で一定とき、以下の問いにこたえよ
① 期待収益率が5%のとき、株式の現在価値を求めよ
P0 = 30円/(0.05-0.03) = 1500円
② 株価が300 円のとき、株式の期待収益率を求めよ
300円 = 30円/(r-0.03) → r-0.03=0.1 r=13%
定率成長モデルの特徴
1 年間の株価上昇率は、配当成長率g に一致する
ROA(総資本利益率、return on asset)とは、総資産に対する利益率
ROA = 事業利益 ÷ 総資産
※事業利益= 営業利益+ 受取利息+ 受取配当金(諸説あり)
ROE(自己資本利益率、return on equity)とは、自己資本でどれだけ利益を上げているかを示す指標
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本
D:負債 E:自己資本 i:負債利子率 t:法人税率
D/E:財務レバレッジ
EPS(1 株当たり純利益、earnings per share)とは、
企業の1 株当たりの利益額
EPS = 当期純利益 ÷ 発行済株式数
BPS(1 株当たり純資産、book value per share)とは、
企業の1 株当たりの自己資本
BPS = 自己資本 ÷ 発行済株式数
ROE = EPS ÷ BPS
EPS = ROE × BPS
サスティナブル成長率(sustainable growth rate、SGR)とは、
ROE と配当性向が一定で不変であるという仮定の下で、
企業が外部資金を調達することなく内部資金のみで達成できる
1 株当たりの利益及び配当の成長率
SGR = ROE ✖(1-配当性向)
SGR = 当期純利益 ÷ 自己資本 ✖ 内部留保率
配当性向:当期純利益から配当に分配する比率
内部留保率:1ー配当性向
来期の配当 = 今期の配当 ×(1+ SGR)
企業が利益のすべてを配当すると内部留保はゼロになり、利益による成長機会を失う。
一方、利益の一部を内部留保し、新たな事業投資に充てることで成長機会を持つ。
これは企業価値の増加要因として株価に反映されることになり、
この株式価値増加分を成長機会の現在価値(PVGO、present value of growth opportunity)という。
すべて配当した場合の株価 = EPS ÷ 期待収益率
内部留保した場合の株価 =(EPS × 配当性向)÷(期待収益率 - SGR)
PVGO = 内部留保した場合の株価 - すべて配当した場合の株価
例)外部調達なしの企業で、EPS:24円、ROE:12%、期待収益率:10%
<利益全てを配当した場合>
SGR = 0% 理論株価 = 24円 ÷ 10% = 240円
<配当性向50%の場合>
SGR = 12% × 50% = 6%
理論株価 =(24円 × 50%)÷(10% - 6%)
∴PVGOは、300円ー240円=60円
次の2 社の株式のどちらに投資した方が期待収益率が高いか?
(A 社)現在株価:500 円、EPS :50 円、ROE:10%、配当性向:50%を維持
SGR = 10% × 50% = 5%
500円 =(50円 × 50%)÷(期待収益率 - 5%)
期待収益率 = 10%
(B 社)現在株価:490 円、EPS:60 円、ROE:8%、配当性向:40%を維持
SGR = 8% ✖ 60% = 4.8%
490円 =(60円 ✖ 40%)÷(期待収益率 - 4.8%)
期待収益率 = 9.7%
配当性向、内部留保率
ROA、ROE、財務レバレッジ
EPS、BPS (関係式)
サスティナブル成長率(利益の成長率、配当の成長率)
成長機会の現在価値(配当か内部留保か)
株式価値は、フリーキャッシュフロー(free cash flow to equity:FCFE)
を割引いた現在価値である として、理論株価を求めるモデルのこと。
割引キャッシュフロー法ともいう
フリーキャッシュフロー(FCFE):株主が自由に使えるお金
FCFE = 当期純利益 + 減価償却費 - 設備投資費 - 正味運転資本増加費 + 負債増加額
ゼロ成長モデルの評価公式
FCFE の成長率がゼロの場合
P0:株式時価総額
r:株式の期待収益率
定率成長モデルの評価公式
FCFE が毎年一定の成長率g で成長する場合
ただし、r>g
株式価値は、現時点の自己資本に将来の残余利益の現在価値を足し上げた価格である
として、理論株価を求めるモデルのこと。
(割引超過利益評価法)ともいう。
残余利益 = 当期純利益 - 期待収益率 ✖ 期首自己資本
残余利益モデルの評価公式1
残余利益(すなわち当期純利益と自己資本)が
毎年一定の成長率g で成長する場合
P0:株式時価総額
B0:自己資本
E1:当期純利益
r:株式の期待収益率
g:成長率
残余利益モデルの評価公式2
ROE が一定で変わらず、
自己資本が毎年一定の成長率g で成長する場合
ただし、r>g
各期の自己資本の増減要因は、利益と配当のみである
とする仮定をクリーンサープラス関係という
Bn = Bn-1 +(En - Dn)
Bn:n 年後の自己資本
En :n 年後の当期純利益
Dn:n 年後の配当(総額)
クリーンサープラス関係が成り立つとき、
残余利益モデルと配当割引モデルによる理論株価は一致する
フリーキャッシュフロー割引モデル
残余利益モデル
クリーンサープラス関係
配当割引モデルと残余利益モデルの同値性
PER(price earning ratio、株価収益率)とは、
株価を 1 株当たりの純利益(EPS)で割った値。
PER の単位は「倍」で表示するのが通例
定率成長配当割引モデルを前提とすると、PER は次式で再定式化できる
PBR(price book value ratio、株価純資産倍率)とは、
株価を1 株当たりの純資産(BPS)で割った値である
※PBR の単位は「倍」で表示するのが通例
PBR は、株式時価総額をその簿価である自己資本で割っている指標である
⇐つまりこういうこと
残余利益の現在価値がプラスのとき、PBRは1を上回る
例題)
ある企業の株式の期待収益率が8%、残余利益の成長率が6%で毎年一定であるとき
①PBR が1 倍を超えるためにはROE は何パーセント必要か
残余利益モデルの評価公式2をにより、
PBR が1 倍を超えるためには、ROEが期待収益率の8%より大きくなくてはならない
②ROE が10%、自己資本が100 億円であるとき、PBR を求めよ
残余利益モデルの評価公式2をにより、株式時価総額が200億円
問題文より自己資本が100億円なので、PEBの公式により
200億円 ÷ 100億円 = PBRは2倍
1 株当たりの配当を株価で割ったものであり、配当に対する収益率を表している
インカムゲインの指標
配当利回り = 1株当たり配当 ÷ 株価
※パーセントで表す
例題)
ある企業の発行済株式数が1 億株、株価が700 円、
今期の予想配当総額が60億円のとき、配当利回りを求めよ
(60億円÷1億株)÷ 700円 = 8.57%
1 株当たり純利益(EPS)を株価で割ったもの
PERの逆数
益利回り = EPS ÷ 株価 = 1 ÷ PER
※パーセントで表す
EPS を1 株当たりの自己資本(つまり株式簿価)で割ったものがROE であるのに対し、
益利回りは株価(時価)で割っている。ROEの時価版
スプレッド(spread)とは、差のことをいう。
債券利回りと益利回りの差をとった債券と株式の相対的な投資魅力度を測る指標
イールドスプレッド = 長期債利回り - 益利回り(%)
※長期債は一般的に10年物
※益利回りは、個別銘柄ではなく株式市場全体
例題)
ある企業のEPS が60 円、株価が500 円、長期債利回りが7%のとき、イールドスプレッドを求めよ
7% -(60円÷500円)= -5%
PCFR(price cash flow ratio、株価キャッシュフロー比率)とは、
株価を1 株当たりのキャッシュフローで割った指標
PCFR = 株価 ÷ 1株当たりのキャッシュフロー
※倍で表示する
※ここでの「1 株当たりキャッシュフロー」は簡便的に次式とする
1 株当たりキャッシュフロー= EPS+1 株当たり減価償却費
例題)
ある企業の当期純利益が60 億円、減価償却費が3 億円、株価が500 円、
発行済株式数が1 億株のとき、PCFR を求めよ
500円÷((60億円+3億円)÷1億株)= 7.94倍
企業価値(=有利子負債総額+株式時価総額)をEBITDA で割った指標
企業買収などで用いられる
企業価値EBITDA比率 = 企業価値 ÷ EBITDA
※倍で表示する
EBITDA(earnings before interests, tax, depreciation and amortization)とは、
減価償却前の営業利益
例題)
ある企業の営業利益が200 億円、減価償却費が3 億円、株価が500 円、
発行済株式数が1 億株、銀行借入が200 億円、社債発行額が300 億円のとき、
企業価値EBITDA 比率を求めよ
(500億円+200億円+300億円)÷ (200億円+3億円)=4.93倍
株価EBITDA 倍率とは、株価を1 株当たりEBITDA で割った指標
株価がEBITDAの何年分かを測る
株価EBITDA倍率 = 株価 ÷ 1株当たりEBITDA
※倍で表す
※PERと似ているがこちらは特別利益や特別損失の影響を排除した指標
例題)
ある企業の営業利益が200 億円、減価償却費が3 億円、株価が500 円、
発行済株式数が1 億株のとき、株価EBITDA 倍率を求めよ
500円 ÷((200億円+3億円)÷1億株)=2.46倍
株価売上高比率(price sales ratio:PSR)とは、
株価を1 株当たり売上高で割った指標
株価売上高比率 = 株価 ÷ 1株当たり売上高
※倍で表す
※ベンチャー企業などの赤字で利益や配当の出せない企業の
株式価値を測る指標として活用される
例題)
ある企業の売上高が200 億円、株価が500 円、発行済株式数が1 億株のとき、
株価売上高比率を求めよ
500円÷(200億円÷1億株)=2.5倍
PER
PBR
配当利回り、益利回り、イールドスプレッド
PCFR、企業価値EBITDA 比率、株価EBITDA 倍率
株価売上高比率