第14章 人々の将来予測と経済変動

家計の将来予測

これまでの長期モデル・短期モデルは、

あらかじめ決められた関数に従って行動すると仮定されていた。

 消費関数: C = c(Y-T⁻) + C⁻

 投資関数: I = ―br + I⁻

将来のことを考えて行動するはずだが、その視点が抜け落ちている。

 

2期間を生きる家計

<設定>

・残された人生が第1期と第2期しかないとする。

・利子率はゼロ

・各期の可処分所得の額をあらかじめ知っている

消費平準化動機がある(各期の可処分所得の和の半分を各期に消費したい)

   

   Yi:第i期の所得

   Ti:第i期の税金

   Ci:第i期の消費

 

 

第1期の消費

平準化しているので第2期も同じとなる。

 

第1期(現在)の消費は、第1期の可処分所得だけではなく、

第2期(将来)の可処分所得にも依存する。

 

現在の消費を決定する上で、将来予測が重要。

 

2つの限界消費性向

一時的な可処分所得の増加(第1期のみ1単位増加)

  ⇒消費平準化動機により、限界消費性向は0.5となる。

持続的な可処分所得の増加(両期とも1単位増加)

  ⇒限界消費性向はとなる。

 

持続的な増加の方が、現在の消費をより増加させる。

 

限界消費性向は、持続的な変化に対しては大きく、一時的な変化に対しては小さい。

景気拡大効果が大きいのは、持続的な施策。

 

財政政策と将来予測

2期間を生きる家計のモデルに政府を入れてみる。(企業と外国は考えない)

利子率はゼロ

 

   Gi:第i期の政府購入

   Ti:第i期の税金

 

第1期のT1が少なくG1に足りないとしても、国債を発行して補うことができるので

税収が政府購入よりも少なくても構わない。

ただし、2期間を通じては、政府購入と税収は等しくなければならない。

つまり、第1期の借金は、第2期に返済しなければならない。

よって下記の予算制約式が成り立つ。

 

政府の予算制約式

  T2 =(G1 ― T1)+ G2 

  G1 + G2 = T1 + T2

毎期の政府購入の合計は、毎期の租税の和によって賄われる

家計はそのことを知っている。・・・家計の合理性

 

リカードの等価定理

2期間の政府購入を変えないのであれば、

第1期の減税は、第2期の増税を暗に意味している。

 

合理的な家計では、減税は消費を全く変化させない。

リカードの等価定理

短期モデルとは異なる結果となる。

 

借入れ制約

リカードの等価定理が成立する条件は

家計が自由に貸し借りできること。

現実の経済では、借り入れ制約があるため、必ずしも消費を平準化できるわけではない。

 

第1期 所得が少ない 第2期 所得が多い という世帯では

第1期に借り入れをして消費を平準化したいが借り入れ制約に直面してうまくいかない。

 

借り入れ制約に直面している家計の割合が、経済政策の効果の大きさを決める一因となっている。

 

GDPギャップ

 【GDPギャップ】:実際の総生産(Y) と 通常の生産能力、総生産(Y⁻)の差

 

GDPギャップ = Y-Y⁻  ↑↓

       =  実際の総生産 ― 通常の総供給

 

生産量(Y)が通常の生産能力よりも増加するとインフレ率は高くなる

 

GDPギャップが大きいほどインフレ率は高くなる。 ↑↑

 

フィリップス曲線

◆フィリップス曲線

 失業率と賃金上昇率が負の相関関係であることを示す曲線 ↑↓、↓↑

 

◆オークンの法則

 失業率はGDPギャップと反対方向に動く  ↑↓、↓↑

 

◆賃金上昇率とインフレ率は同じ方向に動く ↑↑、↓↓

 

以上の法則より

 GDPギャップが高いとき = 失業率が低いとき

             = 賃金上昇率が高いとき

             = インフレ率が高いとき

 

インフレの要因

GDPギャップが増加する要因

 総生産(Y)↑ - 総供給(Y⁻)↓

 

・総生産(Y) の増加:財市場の総需要の増加、金融政策による需要の拡大 

・総供給(Y⁻) の減少:生産性の低下、災害による資本ストックの損壊

 

 上記2つの変化は、インフレを引き起こす

 

総生産への影響

・正の総需要ショック:短期的に総生産を増加させる

・負の総供給ショック:長期的に生産性を低下させる

 

将来インフレ予想と現在のインフレ率

現在のインフレ率は、GDPギャップだけではなく、

予想される将来のインフレ率によっても影響を受ける

フィリップス曲線は、予想される将来のインフレ率水準によってシフトする