第15章 経済成長

 

1⃣資本と労働を用いて、生産技術に基づいて生産物が生み出される

2⃣生産物は、消費と貯蓄に分けられる

3⃣貯蓄は投資となり、資本の一部となる。もともとある資本は減耗していく。

4⃣労働量は、人口増加によって増加する

5⃣生産技術は、技術進歩によって向上する

 

「資本の貯蓄」「労働量の増加」「生産技術の向上」によって

生産量が時間を通じて増大していく = 経済成長

 

経済成長モデルでは、生産量は総供給によって決まる

 

グラフの囲った部分を数式化する。

➀生産関数

➁消費と貯蓄の配分

➂資本の蓄積

➃技術進歩・人口成長

生産関数と生産要素、技術水準

生産要素:資本ストック(K) と 労働(L)

 

生産関数  Y = F(K,L)

 

総生産(Y)は、資本ストック(K)の増加関数であり、労働(L)の増加関数でもある。

 

【全要素生産性】:同じ量の資本ストックと労働で、どれくらいの財を生産できるか

         を全要素生産性という(生産技術)

 

限界生産性の逓減

生産関数の傾きが徐々に緩やかになっていくこと。

縦軸に総生産(Y)、横軸に資本ストック(K) のグラフで右上がりで山なり。傾きは常に正

 

 

全要素生産性(技術水準)と生産

全要素生産性が向上すると、同じ資本ストック・同じ労働の水準でも

総生産が増加する。 つまり生産曲線が上にシフトする。

 

生産関数の例

コブ・ダグラス型生産関数

A:全要素生産性(正の定数)

α:0と1の間を取る定数(計算を容易にするために0.5とされることがしばしばある)

     その場合1/2乗なので平方根になるためコブ・ダグラス型生産関数は下記のようになる。

ソロー・スワン経済成長モデル

最も基本的な経済成長モデル

資本蓄積によって経済成長が生じる仕組みがわかる

 

<仮定>

・労働と全要素生産性は固定されていると考える

・政府部門や外国部門は存在しないと考える

 

消費と貯蓄の配分(➁の部分)

ソロー・スワン モデルでは、貯蓄率は一定と仮定する

 S:貯蓄 savings

 s:貯蓄率

  S = sY

 

政府部門と外国部門は存在しないと仮定しているので、貯蓄はすべて投資になる。

   I = S

 

資本蓄積の過程(➂の部分)

資本ストックの変化は、投資と資本減耗によって起こる

 

       資本t

資本減耗─┤

        ├─投資

       資本t+1

 

資本ストックの変化  

 D:資本減耗 depreciation

 d:資本減耗率 (減耗の量は資本ストックの量に比例すると仮定)

 

  ΔK = Kt+1 - Kt

  ΔK = I ― D  = I ― dK

   ※デルタは増加分という意味

 

 

経済成長の基本モデル

ここまでの式のまとめ

 生産関数     Y = F(K,L)

 資本の蓄積    ΔK = I ― dK

 貯蓄       S = sY

 投資と貯蓄の関係 I = S

 

これを1つの式にまとめると

      ΔK = sF(K,L) ― dK

      K:資本ストック、L:労働、s:貯蓄率 d:減耗率

Lは一定なので右辺はKのみの関数

 

◆資本を増やす力:右辺の第1項

        sF(K,L)

 総貯蓄を表している

 貯蓄は投資になり資本ストックになる

 

◆資本を減らす力:右辺の第2項

        dK

 資本減耗を表している

 

青い直線は、減耗線。 仮定として常に一定割合なので直線。

オレンジの曲線は、貯蓄線。資本の限界生産性逓減により徐々に緩やかになる曲線。

したがって2つの線は必ず交わる。交わるときの資本ストックは、K*

K* で2つの線は均衡して増えも減りもしなくなる ⇒定常状態(steady state)

 

定常状態に到達するまでは、 増やす力 > 減らす力 で資本ストックは増加していく。

資本が蓄積されるにしたがって、徐々に蓄積のスピードが遅くなり定常状態に収束する。

 

定常状態の決定要因

1⃣貯蓄率の上昇

 貯蓄線を上方にシフトさせる。

2⃣全要素生産性(技術水準)の上昇

 生産関数を上方にシフトさせるので、それに一定割合をかけた貯蓄線も上方へシフトする。

3⃣資本減耗率の低下

 減耗線の傾きを緩やかにする。

 

<1⃣および2⃣のグラフ>

 

<3⃣のグラフ>

 

定常状態のまとめ

  • 貯蓄率が高ければ、   より高い定常状態の資本を達成できる
  • 全要素生産性が高ければ、より高い定常状態の資本を達成できる
  • 資本減耗率が低ければ、 より高い定常状態の資本を達成できる

資本ストックが多ければ、総生産も多いので、

この3つの性質を持つ国は、他の条件が同じでも高い生産性を実現する。

 

 

重要なポイント!

資本の蓄積だけでは経済は成長し続けることはできない。

 

現実に観察される持続的な経済成長を説明するためには、モデルを拡張する必要がある。

 

全要素生産性を含むソロー・スワンモデル

生産関数

  Yt = F(Kt,AtLt)

 At:全要素生産性

 AtLt:効率労働(労働増大型技術進歩)

 

仮定1:規模に関して収穫一定

    資本ストックと効率労働をともにz倍すれば、生産量もz倍になる。

 

効率労働1単位あたり生産関数

 

効率労働AtLtで生産量や資本ストックを割ることで

効率労働1単位あたりの生産性や資本ストックを算出できる。

それを小文字で表記する。

 

 yt = Yt/AtLt(効率労働1単位あたりの生産量)

 kt = Kt/AtLt(効率労働1単位あたりの資本ストック)

 

効率労働1単位あたりの生産関数

 yt = f(kt)

 

消費と貯蓄の配分

生産物は消費と貯蓄に分けられる

  Yt = Ct + St

全ての項をAtLtで割ることで、効率労働1単位あたりに変換したものを小文字で表記する。

  ty = ct + st

 

仮定2:貯蓄率は一定

  St = θyt

   θ:貯蓄率

 

 

人口成長と技術進歩

 

仮定3:人口成長率と技術進歩率は一定

  (Lt+1 ― Lt)/Lt = n

  (At+1 ― At)/At = gA

 

   n:人口成長率

   gA:技術進歩率

 

定常状態の資本ストック

kss:定常状態の効率労働1単位当たり資本ストック

d:資本減耗

上記式より

  • 貯蓄率θの上昇
    ⇒定常状態における効率労働1単位あたり資本ストックを増加させる
  • 資本減耗率dの上昇
    ⇒定常状態における効率労働1単位あたり資本ストックを低下させる
  • 技術進歩率gAの上昇
    ⇒定常状態における効率労働1単位あたり資本ストックを低下させる
  • 人口成長率nの上昇
    ⇒定常状態における効率労働1単位あたり資本ストックを低下させる

 

人口成長と技術進歩を導入したモデルのポイント

重要なポイント

効率労働1単位あたり資本ストックは、定常状態に達すると成長しなくなるが、

労働者1人あたり資本ストックや経済全体の資本ストックは成長し続ける

 

同様に

効率労働1単位あたり生産量は、定常状態に達すると成長しなくなるが、

労働者1人あたり生産量や経済全体の生産量は成長し続ける

 

定常状態 到達後どうなる 資本ストック 生産量

効率労働1単位あたり 

(/AtLt)

定常状態で

成長しなくなる 

定常状態で

成長しなくなる

労働者1人あたり

(/Lt)

成長し続ける 成長し続ける

経済全体

 

成長し続ける 成長し続ける

労働者1人あたりの資本の成長率

労働者1人あたりの資本の成長率 = gA

 

gA:技術進歩率

 

効率労働1単位あたり資本ストックが定常状態に到達しても、

労働者1人あたり資本ストックは、技術進歩の率で成長し続ける

 

経済全体の資本の成長率

経済全体の資本の成長率 = gA + n

 

 n:人口成長率

 

効率労働1単位あたり資本ストックが定常状態に到達しても、

 

経済全体の資本ストックは、技術進歩率と人口成長率の和の率で成長し続ける

 

ソロー・スワン モデルの含意

持続的な経済成長を実現するためには、人口成長技術進歩が必要。

 

特に国民一人一人を豊かにしていく要因は、技術進歩(全要素生産性の改善)のみである。