長期モデルでは、需給が一致するように価格が調整させた後の長期均衡で何が起きているかを扱う。
【価格の伸縮性】:需給を一致させるように価格が調整されること
【長期】:具体的な期間ではなく「価格が伸縮的な状態」を指す
<記号>
s:供給側supply 例)Ys・・・総供給:経済全体の供給量の合計
d:需要側demand
Cd・・・消費需要:家計が消費したい財の総量
Id・・・投資需要:企業が投資に使いたい財の総量
Gd・・・政府購入需要:政府が購入したい財の総量
NXd・・・純輸出需要
Yd・・・総需要:上記4つの合計
Y*・・・均衡生産量:総供給を総需要が等しくなる生産量 Y*=Ys=Yd
◆生産量の決まり方
企業は資本ストックと労働力を生産要素としている。
一定量のそれらを与えられたとき、どれだけ生産できるかは、
生産技術(全要素生産性)によって決まる。
総生産関数:生産量の合計 = 総供給を決定する数式 F(〇)
Ys = F(K,L)
K・・・資本ストックの総量
L・・・労働者の総量
※これらの総量はある期において一定なので定数を意味するバー付きで表す。
K⁻ L⁻
ポイント!
長期均衡では、存在するすべての資本ストックと労働者が生産活動に利用される。
長期均衡における総供給
Ys = F(K⁻.L⁻) = Y⁻
投入される生産要素が一定なら、総供給も一定となる。
総生産は総供給で決まる
総生産(均衡生産量)は
Y*=Ys=Yd
衝撃的結論
長期での均衡生産量は、供給側の条件(生産要素の量と生産技術)のみで決定する。
総需要側の条件の影響を受けない。
家計が消費したい量は、可処分所得で決まる。
【可処分所得】:所得から租税を引いたもの
消費関数
Cd = c(Y ― T) + C⁻
Cd:消費需要 Y軸
Y:総所得
T:租税
Y-T:可処分所得 X軸
c:限界消費性向 0 < c < 1 切片からの角度
C⁻:基礎消費 非負 C⁻ ≧ 0 Y軸切片
右上がりのグラフとなる
企業が投資したい量は、利子率で決まる
利子率は投資を行うときのコスト。
利子率が低いと投資は増え、高いと減る。
投資関数
Id = —br + I⁻
r:利子率 Y軸
Id:投資需要 X軸
右下がりのグラフとなる。
政府購入と租税は、外生変数
【外生変数】:他の変数によらず決まること(政府が決める)
【財政政策】:政府購入と租税を決定する政策のこと
Gd = G⁻
T = T⁻
純輸出(=輸出ー輸入)は定数 (単純化している)
NXd = NX⁻
Yd = Cd + Id + Gd + NXd
=c(Y-T⁻) + C⁻ - br + I⁻ + G + NX⁻
総生産Y と 利子率r に注目
生産量が増えると可処分所得が増えて消費が増えるため、総需要が増加する
利子率が高くなると借入れが減って投資が減るので総需要が減少する
所与の条件(与件)が変化した場合に均衡がどのように変化するか。
種類 | 所与の条件 | 結果 |
総需要 ショック |
財政政策 (政府購入の増加) |
長期では総生産は総供給できまるので 需要を増やしても総生産は変わらない。 |
財政政策 (減税) |
長期では総生産は総供給できまるので 減税で可処分所得が増えても総生産は変わらない。 |
|
企業の投資が増加 |
投資意欲が旺盛になっても利子率の上昇で吸収され、 実質投資は増加しない。 |
|
海外からの需要の増加 (純輸出増加) |
利子率が上昇し、投資量が調整されて、 総生産はかわらない |
|
総供給 ショック |
全要素生産性の上昇 |
総供給ショックのみが総生産を増加させる 利子率は下がる
|
生産要素の増加 |
政府購入を増加させることは、総需要側のみに影響を与える:総需要ショック
◆総生産への影響
「衝撃的結論」より、長期モデルでは総生産は総供給によって決まるので
総需要ショックである政府購入の増加は総生産に影響を与えない。
Is = Id ⇔ [Ys - Cd - Gd]ー NXd = Id
◆起こっていること
・総生産が不変のもとで、政府需要が増えれば、民間が投資できる量が減る。(Isの左シフト)
・投資資金(Is)の減少に対して、投資需要曲線(Id)は右下がりであるため、
均衡点が上がり利子率が上昇する。
長期モデルにおいて、政府購入の増加は利子率を上昇させるが、
投資を低下させて、総生産には何の影響も与えない。
減税も総需要ショックである。
よって減税も長期では総生産に影響を与えない。(政府購入の増加と同じ効果)
Cd = c(Y ー T) + C⁻
Tを減らすと可処分所得が増えるので、限界消費性向の分 消費を増加させる。
Is = Id ⇔ [Ys - Cd - Gd]ー NXd = Id
総需要(Ys)、政府購入需要(Gd)、純輸出需要(NXd)が不変で、消費需要(Cd)を増大させると
投資資金の供給(Is)を減少させる。
投資資金の供給(Is)が減少するので、利子率が上昇する。
投資需要の増大も総需要ショックである。よって総生産には影響なし。
【アニマルスピリット】:企業が投資収益に楽観的な予想をし、投資を増大しようとすること。
投資関数 Id = -br + I⁻
Is = Id ⇔ [Ys - Cd - Gd]ー NXd = Id
投資資金需要を増大させる。
なのでIdが右側にシフトする。
利子率は上昇しているが、資金供給(Is)は一定。
アニマルスピリッツによって投資意欲が旺盛になっても
すべて利子率の上昇によって吸収されて、投資量は変化しない。
純輸出需要も総需要ショックである。 よって総生産は変わらない。
<総需要ショックのポイント>
長期モデルにおいては、総需要ショックは利子率に上昇させて
投資量を調整することで総生産は変化しない。
【総供給ショック】:全要素生産性の上昇や生産要素の増加は、総供給を増加させる
長期モデルにおいて、総供給ショックのみが総生産の増加をもたらす。
Isが右にシフトして、右下がりのId曲線との均衡点は下がる。
よって利子率も下がる。
【摩擦的失業】:物理的な距離や産業間の距離により、
働く意思があるのに働くことができない状況
暗黙の仮定は・・・長期的には賃金が調整されるので失業者は存在しない。
現実は、賃金調整され労働市場の需要と供給が一致しても一定数の失業者はいる。
【自然失業率】:摩擦的失業などの要因で、長期においても発生する失業者数を
労働力人口で割ったもの
自然失業率は、政府の政策とは無関係に決まる定数。
L⁻:経済全体の労働者数
u⁻:自然失業率
L :実際に生産活動に従事する労働者数
L = (1 - u⁻)L⁻
【物価水準(P)】:財・サービスの貨幣単位で表された価格の平均のこと
【インフレ率(π)】:t期の物価水準をPt、t+1期の物価水準をPt+1とすると
t期からt+1期にかけてのインフレ率(π)は、
つまり、
物価の差/元の物価
【貨幣】:取引に容易に用いることができる資産。M2も含む
【M2】:現金と預金
※貨幣の大半は預金
政府・中央銀行は、現金の発行量は決められるが、預金額を決めるのは家計や銀行なので
M2の量は政府が直接決めることはできない。
【実質貨幣ストック】:ある時点で経済に存在しているすべての貨幣で購入可能な財の総量
実質貨幣ストック = 名目貨幣ストック/物価水準
実質貨幣ストック = 1000円/100円 = 10個
物価水準が200円に上昇したら 5個しか買えなくなった。
実質貨幣ストック = 1000円/200円 = 5個
このとき「貨幣の価値が低下した」という
貨幣を取引する市場が存在する
貨幣にも需要と供給があり、均衡が存在する、と考える
<記号>
M:(名目)貨幣ストック
Ms:貨幣供給
Md:貨幣需要
P:物価水準
M/P:実質貨幣ストック
貨幣供給を決定するのは政府である
Ms = M⁻
M⁻:貨幣供給量は政府によって一定に設定されている
M⁻を増減させる政府の政策を金融政策という
貨幣需要を決定するのは民間(家計と企業)である
資産を
・利子は付かないが 取引に使える 貨幣
・利子は付くが 取引に使えない 債権
の2つに分割して保有している。
貨幣需要の決定要因
◆取引量
・人々は取引に必要な分だけ貨幣を持つ
⇒貨幣需要は、総生産(Y)の増加関数である
◆利子率
・債権を貨幣に交換するのを高頻度で少しずつすれば利子収入を最大化できるが手間がかかる
・利子率が低ければ、交換の手間を避けて多めに貨幣を保有する
・利子率が高ければ、交換の手間を惜しまず一度に持つ貨幣量は減らして債権を多くする
⇒貨幣需要は、利子率(i)の減少関数である
【名目】:通貨の単位で測られた
【実質】:財 の単位で測られた という意味
【名目利子率(i)】:Interest 普通の利子。
【実質利子率(r)】:Real interest 財⇒債権(t+1期)⇒財 と交換したとき
元手になった財に加えて何単位余計に財を買えるか。
【インフレ率(π)】:物価の差/元の物価
1+i =(1+r)×(1+π)
r×πはとても小さい値なので近似的に0とみなせる
⇒実質利子率は、名目利子率からインフレ率を引いた値となる。
フィッシャー方程式
r = i― πe
投資は実質利子率の減少関数である
投資の決定には、名目利子率だけではなくインフレ率も影響を与える。
貨幣需要は、名目利子率の減少関数である。・・・名目利子率が上がれば貨幣需要は下がる
つまり、現金をどれだけ保有するかは、名目利子率の影響を受ける。
総生産(Y)の増加は、貨幣需要を増やし、 ↑↑
名目利子率の上昇は、貨幣需要を減らす ↑↓
ただし、a1>0 a2>0 iはr+πe と書き換えられる
貨幣需要は、物価水準との対比で 需要が大きいか小さいかを意味する。
なので、物価(P)で割っている。
長期モデルを構成する方程式 4つ
(1)財の総生産(Y)は、総供給(Ys-Y⁻)で決まる
(2a)財市場の長期均衡では、総生産は総需要(Yd)と等しくなる
(2b)総需要は、消費需要・投資需要・政府購入・純輸出 の和となる
(3)貨幣市場の均衡では、貨幣供給と貨幣需要は等しくなる
YとrとP以外は、定数なので何らかの数字が入っている。
Y ➝ r ➝ P の順に決まっていく
単純化した金融政策の定義:通貨供給量(M⁻)を増減すること
政府がヘリコプターマネー政策を実施したとき、
総生産(Y)・実質利子率(r)・物価水準(P) にどのような変化が起こるか?
◆総生産(Y)の決定
長期モデルの式に(M)は入っていない。
また「衝撃的結論」により、総生産は総供給側の条件で決まる。
なのでヘリコプターマネー政策で通貨供給量を増やしても長期では何も変わらない。
◆実質利子率(r)の決定
総貯蓄(S)と投資(I)が一致するように実質利子率(r)が決定される。
ここにも(M)は出てこないので、通貨供給量を増やしても長期では何も変わらない。
※総生産(Y)と実質利子率(r)は、金融政策と無関係に財市場の条件によって決まる。
◆物価水準の決定
貨幣市場の均衡条件式
通貨供給量(M)を増やしても右辺は変わらない。なので物価水準(P)が変わる。
Mを2倍にしたらPも2倍になる
上記の定理から、長期モデルにおいて金融政策はどのような実質変数の値も変化させない。
長期モデルでは、価格変数が伸縮的 というのがポイント
政府購入の増加等で総需要が増加すると投資資金の需要が増加する
ので、実質利子率(r)が上昇する
rが上昇するとその前に-が付いているので右辺全体は減少する。
M⁻は定数なので物価水準(P)が上昇する。
直観的にいうと
利子率が高くなると利子が付かない貨幣ではなく債権を持とうとする。
それは貨幣価値の低下を意味し=物価水準の上昇につながる
総供給が減少すると、投資資金の供給が減少するので
実質利子率が上昇する。
総供給の減少は、総生産(Y)も減少させる
総生産の低下による取引量の低下と利子率の上昇によって
貨幣の需要が減り、貨幣価値が低下するため、物価水準が上昇する
1⃣ 貨幣供給の増加(ヘリマネなど)
2⃣ 総需要の増加
3⃣ 総供給の減少
ピンクのセルのようなことが起きたとき、長期で起こること
通貨供給量(M) | 同じ | 投資(I) | 実質利子率(r) | 物価水準(P) | ||
総生産(Y) | 総需要 | 総供給 | ||||
↑ | ➝ | ➝ | ↑ | |||
↑ | ↑ | ↑ | ||||
↓ | ↓ | ↑ | ↑ |
物価(P)は貨幣価値(M)の逆数
長期モデル = 古典派モデル(価格が伸縮的である状態)
実質変数(Yとr)が決まり、名目変数(P)が決まる。
この構造を古典派の2分法という。
価格が伸縮的に調整される場合、人々の行動は実質変数のみに影響されて、
名目変数は後から決まる。
長期(古典派)モデルでは、実質変数だけを重要視する