立地論:
経済主体の行為・活動が
「なぜwhy」その場所に立地したのか、
「なにがwhat」立地のメカニズムに働いているのか
という、企業経営や経済社会の問題群を地理的な視点を入れて考察する経済学のモデルの一つ。
立地論では主に企業行動に注目することから、経済学・経営学・地理学にまたがる学際的分野である。
【農業分野】
チューネンの農業立地論(1826)…中央の大都市をとりまいて農業地帯が同心円状に分布→地代論
【工業分野】
ウェーバーの工業立地論(1909)…工場は輸送費最小地点に立地 →工場立地論
【商業分野】
クリスタラーの中心地理論(1933)…蜂房構造をもつ中心地システムモデルが構築→都市システム論
ウェーバーは、工業生産において利潤を最大化するには、輸送費や労働費、地代などの生産費を節約する必要があり、そのなかでも輸送費が最小となる地点に工場は立地するとした。
原料・動力・製品の重量を
W1、W2、W3としたとき、
r1W1+r2W2+r3W3の値が最小となる
P点において輸送費は最小となる。
理論上はこの地点が最も合理的な
工場立地となる。
立地因子 | 輸送費 | 原料輸送費、製品輸送費 |
生産費 | 労働費、地代、用水費、電力費 | |
立地条件 | 自然条件 | 気候、地形、地下水、河川 |
社会条件 | 交通、通信、情報、教育、生活の便 |
立地因子・・・生産コストに直接作用するもの
立地条件・・・生産効率や労働者の生活の便などに影響があるもの
普遍原料 | 産地が限定されず、いたるところで入手可能な工業原料 |
局地原料 | 産地がある場所に限られている工業原料 |
純粋原料 | 製造過程を通じて、原料と製品の重量があまり変わらぬもの |
重量減損原料 | 製造過程で、製品の重量が原料に対して軽くなるもの |
局地性のある原料を使う場合は、その制約を受ける。
重量減損原料を使う場合は、原料指向型立地となる。(例)鉄鋼、石油化学、パルプ
普遍原料を使う場合は、市場志向型立地となる。(例)ビール、飲料
機械や設備のウェイトが大きい資本集約的産業(装置型産業)
「製銑部門」:鉄鉱石を還元して銑鉄をつくる
「製鋼部門」:銑鉄を精錬して粗鋼など鋼鉄をつくる
「圧延部門」:鋼鉄を圧延して鋼板・鋼管などの鋼材に加工する
銑鋼一貫製鉄所とは、製銑・製鋼・圧延の3部門を連続的に生産する工場
高炉:製鉄所の主要な設備で、鉄鉱石から銑鉄を取り出すための炉。
溶鉱炉とも呼ばれる。
立地因子→輸送費が重要(原料、製品ともに重量が重い)
立地条件→大規模な土地、原料をストックしておくヤード、電力・用水など。
原料→重量減損原料、局地原料
原料輸送が最小になる地点(輸入依存度が高い日本の場合は臨海になる)
=大規模な湾岸の埋立地に製鉄所が立地している。
また、市場は建設業および自動車産業であり、太平洋ベルト地帯に集中しているので
臨海部が最適立地となる。
原料指向型立地 |
重量減損原料を使用する工業は原料産地で製品化すれば輸送費が最低になる。そのため、原材料の産地に近接して立地する。日本は原材料産地が乏しいため、臨海指向型になる。 例)鉄鋼・石油化学・パルプ・セメントなど |
市場指向型立地 |
普遍原料を使用する工業は原料輸送の割合が小さいため製品輸送距離が最低となる市場(消費地)付近に立地する。 (例)ビール・清涼飲料水など |
労働力指向型立地 |
純粋原料を使用する工業では原料産地と市場の間のどこに工場を建設しても理論上輸送費の変化が小さい。製造原価に占める労働費の割合が高い労働集約型産業は低賃金労働力が最も得やすい場所・地域に立地する。(例)縫製などの衣服・家電や自動車などの加工組立 |
繊維産業の種類
製糸業
蚕(かいこ)から絹織物の原材料となる生糸を生産する産業。
紡績業
原料の繊維から糸の状態にするまでの工程。
主に綿や羊毛、麻などの短繊維(最長1.5m程度)の繊維を長い糸にする。
織物業
糸を織って布をつくる産業。(絹織物、毛織物、綿織物)
縫製業
布を織って衣服などをつくる産業。
縫製業から卸・販売まで含んだ用語:衣服産業やアパレル産業
繊維産業の特性
製造原価のうち労働費のウェイトが高く、労働集約的産業の代表である。
近年では中国における大量労働力の利用やミャンマー、バングラデシュ
などの途上国への進出が多い。
立地のフットルース性
機械設備のウェイトはそれほど大きくないため、
立地のフットルース性(立地の変化度)が高い。
労働費が上昇した場合、労働コストの安い場所へ立地が変化しやすい。
労働費は一般に、国・地域の経済発展によって上昇する。
人件費が上昇すれば、繊維産業の域外移転が進みやすい。
Cf. 立地の固着度→フットタイト
分類 | 工業の種類 | 特徴 | 例 | |
原料 製品 技術 による 分類 |
軽工業 |
日用消費財の生産 中小企業が主体 |
食料品、繊維、衣服、 印刷、皮革、窯業など |
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重 化 学 工 業 |
重工業 |
生産財・耐久消費財の生産 大企業が主体 |
鉄鋼、金属、一般機械、 自動車、電気機器など |
|
化学工業 |
化学的処理を中心とした生産 大企業が主体 |
石油化学、化学肥料、 化学繊維、合成樹脂など |
||
先端技術産業 |
最先端科学技術を用いた産業 大企業やベンチャー企業 |
新素材、エレクトロニクス バイオテクノロジー |
||
需要先 による 分類 |
生 産 財 工 業 |
中間財 |
加工生産した製品の原材料 中間生産物 |
鉄鋼、金属、化学製品、 半導体、電子部品 |
資本財 |
製造過程で用いられる設備 製造装置、生産機械 |
プラント、工作機器、 半導体製造装置など |
||
消 費 財 工 業 |
日用消費財 |
日常生活によく用いられる 消費財、購入頻度が高い |
食料品、衣服、 日用雑貨など |
|
耐久消費財 |
長期の使用に耐える消費財 日用消費財より高価 |
自動車、家電製品 家具など |
立地パターンによる分類
消費地市場志向型 | |
原料産地指向型 | |
集積指向型 |
チューネンの農業立地論(1826)
中央の大都市をとりまいて農業地帯が同心円状に分布
チューネン・リング
同心円モデルの原初的模型
農場主だったvon Thünenは、最大の収益を上げるには、どこの農地に何を作らせればよいか考えるなかで、農業地域の同心円構造のモデルを生み出す。
自然条件(土地を含む)が均質な空間を前提とする。
チューネン・リングにおける位置地代の式
L = Y(P - C) - YDF
L:位置地代
Y:生産量
P:作物の市場価格
C:作物の生産費
D:市場からの距離
F:輸送費
Christaller(1933)
中心地(商業施設などの都市機能が集中している場所)の理論
財によって市場圏の大きさが変化することに着目した。
財の到達範囲の大きいものを「高次な財」小さいものを「低次な財」と呼んだ
財の間には補完・代替関係があるから,市場圏が重なり合っている
日本の都市システム
三大都市圏:東京大都市圏,京阪神大都市圏,名古屋大都市圏
地方中枢都市:札幌,仙台,広島,福岡
地方中核都市:新潟,金沢,岡山,高松,熊本など
グローバリゼーションの進展により、地球規模の都市階層システムが
形成されるつつある。「地球都市」「世界都市」
都市の存在理由
都市のネガティブ要素(遠距離通勤、道路混雑、高地価、高物価)
を上回るポジティブな魅力があるからこそ,人は大都市に集中する。
集中しているときの純便益 > 分散しているときの純便益
都市への集中が生じる理由
移動費用が無視でき,完全競争のもとで企業が
収穫一定の生産を行う限り,都市への集中は起こらない.
現実に都市への集中が生じるのは,
「空間の不均一性」,「政治的要因」,「規模の経済」,「集積の経済」
のうち,少なくとも1つが存在する。
空間の不均一性
天然資源や生産要素が不均一に分布していたり,地理的なアクセスに違いがあると,各財・サービスの生産において地域間に相対的な優劣が生じる
どちらも移動できない生産要素として機能する.
「第一の自然」≑自然環境
「第二の自然」・・・港湾・空港,交通ネットワーク,観光資源など,人工物を含む.
政治的要因
日本の場合,政府が強い権限をもつ中央集権的な構造のため,
例えば企業が新規事業を行う場合,政府の許認可が必要となり,
政府への働きかけが重要になる.この点が,東京に本社が集中する理由の一つとされる.
規模の経済
ここでの経済原理は,生産の規模に関する収穫逓増である.
産出量の増大→生産物1単位あたりの固定費用が逓減,平均費用が減少
規模の経済があると,生産要素をk倍投入すれば,生産量はk倍以上になる。
その産業が成長している時期においては,吸収や合併などによって,
企業規模,すなわち都市人口が増大していくことになる.
範囲の経済
同一企業が異なる複数の事業を経営することが、
別々の企業が独立して行うよりもコスト上有利になる現象のこと。
組合せによる相乗効果を指す「シナジー効果」の経済性の面を指した言葉です。
範囲の経済が生じる主な理由は、固定費の分散にあります。
たとえば、関連多角化をした場合、共通のプラットフォームや生産設備を
利用することでコスト上の優位性を築くことができます。
社会資本は,地方公共財として機能し,都市集中の一因になっている.
集積の経済
都市レベルにおける収穫逓増を示す現象。
企業間取引のような外部性があるから生じるものである.
集積の経済には,「地域特化の経済」と「都市化の経済」がある。
地域特化の経済・・・同業種が特定地域内に集中的に立地する.
例)
燕市や三条市の洋食器(金属製品製造業)
鯖江市の眼鏡などの光学レンズ(精密機械)
京都市西陣地区の西陣織(繊維産業)
瀬戸市の瀬戸焼(窯業)など
都市化の経済・・・多くの異業種の集積で,多様性と異質性
から生み出される.都市成長にとって重要性を増してきている。
地域特化の経済が一産業の規模に関する収穫逓増であるのに対し,
都市化の経済は全産業規模に関する収穫逓増である.
Wirth(1938)『都市化の社会学』 社会学の古典的定義
「都市は社会的に異質な諸個人の、相対的に大きい・密度のある・永続的な集落である」
→人口量・人口密度・異質性、の3要素による定義
Weber, M. 『都市の類型学』
「都市とは、巨大な一体的定住を示すごとき集落、家と家とが密接している
ような定住であり、…その住民の圧倒的大部分が農業的ではなく工業的ま
たは商業的な営利からの収入によって生活しているような定住である」
(1)一般的性質:密集性あるいは高密性
農村集落と比較して相対的に大きな人口と高い密度を有している。
(2)経済的性質:非農業性
商工業、すなわち第2次、第3次産業等の非農業的経済活動が主導的な
市場定住地としての性質。
(3)社会的性質:異質性あるいは多様性
職業、思想・信条、出自など多様な個人が集住→その社会的相互作用。
都市における経済活動を支えるインフラストラクチャーが重要。
ex. 交通通信、防災保安、社会福祉、環境衛生、保健医療、
レクリエーション、教育文化などの都市施設
経済学における公共財の議論
社会学における社会資本の集合消費の議論
都市のメリットは、多種多様な個人が集まって、たえず接触しながら情報の交換を行い、
互いに刺激を与え合うことができる点にある。
その相互作用によって、創造的なアイデアや新しい芸術・学術・技術が生まれて
知的財産が形成され、持続的な成長が可能となると考えられる。
近年の都市経済の議論では、Jacobsの再評価のもと、知識の「生産・活用・流動」による革新活動への影響について理論的、実証的な研究が進んでいる。
cf.創造都市論(Richard Florida、佐々木雅幸など)
なお、実証研究における困難の1つは、多様性および知識をどのように測定するかである。
交通の結節点(鉄道・道路・港湾)としての発展
地形的要因:平野や盆地の中心、谷口=渓口集落、滝線都市(アメリカ東部)
特殊的要因:鉱山都市、宗教都市、計画都市など
都市の形態
城郭・城壁をもつ形態…ヨーロッパに多い
自然発生的な形態…モンスーンアジアに多い(自然的要因が作用)
都市の発展→都市内土地利用の分化
現代の典型的な都市では、一定の地理的範囲に都市の圏域が広がり、
都市の内部構造が形成される。
都市の中心部
通常、その年の中心機能や管理機能(中枢管理機能といわれる)を果たす
行政・金融・サービス業などのビジネスが集中して立地している。
一般に「都心(down town)」と呼ばれるが、都市経済学では中心業務地区
(CBD;Central Business District)という。
ex. 東京(都心三区、または丸の内、大手町、日本橋など)
ロンドン(シティなどの金融街など)
NY(マンハッタン島南部、ウォールストリートとその周辺など)
都市の外延部
都市の周辺地域は「郊外(suburban)」といわれる。
郊外とは、中心都市の職場に通勤する消費者の居住活動、
その消費者のための商業活動などの非農業的土地利用が支配的な地域であり、
都心などの中心都市(central city)と社会的・経済的に一体的な関係にある地域といえる。
中心都市(都心)+郊外=大都市圏
大都市圏(metropolitan area)の定義は、そもそも都市の定義が各国で
異なるので大都市圏についても共通した定義はない。
共通しているのは、大都市圏の範囲は中心都市への通勤・通学流動から
設定している点である。
大都市の空間構造
中心から
CBD → インナーシティ → 郊外 → エッジシティ → スプロール → 衛星都市
(移民により治安悪化)
都市の内部構造モデル(都市生態学による初期モデル)
①同心円モデル(concentric ring model)、別名バージェス・モデル
都市の社会構造を説明する最も初期の理論的モデルの1つ。
このモデルは、社会学者Ernest Burgessによって1925年に提示。
このモデルでは、中心部から順に5つの地帯が設定される
1.中心を占めるCBD
2.住商複合地となる遷移地帯
3.低級な住宅地 (inner suburbs)、後年はインナーシティ
4.比較的良質な中産階級の住宅地 (outer suburbs)
5.通勤者地帯
→伝統的に認識されていた、ダウンタウン - ミッドタウン - アップタウンの
3分類よりも詳細なモデルとして有名になった
②扇形モデル(セクターモデル)、別名ホイト・モデル
土地経済学者Homer Hoytによって1939年に提示。
都心から鉄道や道路などに沿って外側へ伸びていくゾーンの存在を提示。
都市の成長が都市の外側に向かって進展していく事実をモデル化。
③多核心モデル(multiple nuclei model)
Chauncy HarrisとEdward Ullmanが、1945年の論文「The Nature of Cities」で発表。
地価・・・ある時点での資産としての土地の価格。(ストック)
地代・・・土地(用地;経済活動に必要な空間)を提供することによって、
支払われる対価。すなわち、土地サービスの価格。(フロー)
地価はストックの概念で、土地所有権の対価といえ、ストックの概念。
一方、地代は1期間あたりの(例えば1年あたりの)、
土地サービスの対価であり、フローの概念である。
モデルの前提
①単一中心都市を仮定(Alonso=Muth=Millsモデル)
②都市は同質の特徴のない平野にある(均質空間を仮定)
③都市の中心部が最も経済価値が高い
④移動には距離に比例して費用がかかる
⑤都市内の土地は都市外の不在地主によって所有されており、
都市の主体は地主から賃貸した土地を利用して、地代を支払う。
⑤は不在地主の仮定といい、モデルの簡略化のためにおかれる。
この仮定がないと、地主にとって市場地代と帰属地代の選択が発生し、
賃貸ではなく所有し続ける、というオプションがありうるからである。
都市の主体(およびその利用)
中枢管理機能(企業本社)、商業機能、住宅、を仮定。
それぞれ土地サービスに対して支払える金額には差がある。
一般的に、中枢管理機能 > 商業機能 > 住宅 と考えられる。
この支払える金額を付け値地代(bit rent)という。Alonsoが提唱。
個々の土地(場所)に対して、最も高い評価を行った主体がそこに立地する
という考え方であり、競売(オークション)と同様である。
各主体にとって、もし単位面積あたりの収益が同一と仮定しても、
④の仮定から右下がりの付け値地代曲線となることは自明である。
都市の階層性
都市は中心地機能(政治・経済・文化)の大小により、
小都市は中都市に、中都市は大都市の勢力圏の影響を受ける
都市システム(都市階層性)が形成される。
世界都市/首位都市、
広域中心都市(地方中枢都市)
地域中心都市(地方中心都市)
cf.政令指定都市…人口50万人(実際は100万人前後)以上の都市で
府県または知事などの事務権限のうち、福祉、衛生、都市計画など
18項目の事務を、府県を経ずに国と直接行える。区制を施行できる。
2017年末現在20都市