用語
【直接金融】:貸し手が借り手に直接資金を融資する
【間接金融】:金融機関を経由して融資が行われる
【相対取引】:貸し手と借り手が1対1で行う取引
【市場取引】:市場の不特定多数から資金を集める取引
貸し手と借り手で資金貸借に必要な情報の質と量が異なる。
それを緩和する方法は?
◆借り手の情報発信・・・情報開示(disclosure)
情報の信頼性が問題
過去の行動がトラックレコードとなる
◆貸し手の情報生産・・・事前審査(知識、技術、費用が必要)
↓
金融仲介機関(事前審査の専門機関)に委託
銀行は典型的な金融仲介機関。銀行の機能のひとつに事前の情報生産機能がある。
借り手を審査し、情報の非対称性を緩和することで資源配分を効率化する。
その機能をスクリーニング機能と呼ぶ。活用することで情報生産費用を節約できる。
事後情報の非対称性があるとき、借り手が自分の収益を大きくするために、貸し手が不利になる行動を行うことがある。(=モラルハザード) これを防止するため、事後に借り手を監視する必要がある。
この監視をモニタリング機能と呼ぶ
市場取引では、個々の貸し手がモニタリングを行うことは難しい。
貸し手全体で市場を通じて行うことになる。市場規律と呼ぶ。
企業家が投資家に不利な行動をとった場合、企業家が発行している債券の流通価格に影響を与え、
次回債権を発行する際の利子率を押し上げることになる。
市場がモラルハザードを抑える規律として機能する。
発信する情報が信頼される経済主体は、市場から資金を調達できる。
市場取引では、借り手の情報発信が重視され
相対取引では、貸し手の情報生産が重視される。
格付機関の情報生産能力が、借り手の情報発信を補完している。
市場で成立している利子率などの条件をみて投資判断を行う。
個々の投資家は独自の情報を保有している。
それらが加味され供給曲線が形成され、需要曲線との交点で利子率が決まる。
したがって市場で取引される価格は、様々な情報を集約した結果である。
【逆選択】:市場の失敗の一種。情報の非対称性のために起こる。
例)質の良い企業家が金融市場から退散する
情報の非対称性のために投資家には良い企業か悪い企業かは判断できない。
そのため良い企業にとって利子率が高くなり、外部資金を使った方が期待収益率が低くなってしまう。
<情報対称時の利子率>
投資家が観察できる場合の利子率 = 要求収益率/成功確率
<情報非対称時の利子率>
投資家が観察できない場合の利子率 = qPg + (1-q)Pb
利子が期待通り支払われる確率
=良い企業の割合・良い企業の成功確率 + 悪い企業の割合・悪い企業の成功確率
<自己資金のみの企業家の期待収益>
企業の質 |
自己資金 (K) |
収益率 (Ri) |
成功確率 (Pi) |
企業家の 期待収益 (PiRiK) |
良い | 1 | 2.0 | 0.7 | 1.4 |
悪い | 1 | 3.0 | 0.3 | 0.9 |
【問題】
経済に質の良い企業家と質の悪い企業家が9:1の割合で存在し、
資金の貸し手には個別の企業家の質はわからない(情報が非対称)ものとする。
質の良い企業家の収益率をRg=2.0 成功確率をPg=0.7
質の悪い企業家の収益率をRb=3.0 成功確率をPb=0.3 とする。
企業家は1単位の資金を保有しており、自己資金のみで事業を始めることもできるが、
市場から外部資金を1単位借り入れて事業を拡大することもできる。
外部の投資家の期待収益率は1とする。
外部の投資家が事業の質を観察できないときに、
市場で成立する利子率と各企業家の期待収益率を計算し、
この状況において逆選択が起きるかどうかを論じよ。
情報が対象のときの利子率
企業の質 |
成功確率 (Pi) |
要求収益率
|
利子率 (要求収益率/Pi) |
良い | 0.7 | 1 | 1.4 |
悪い | 0.3 | 1 | 3.3 |
投資家が企業を観察できるので企業の質に応じて利子率が定まる
情報が非対称のときの利子率
企業の質 |
割合 (qi) |
成功確率 (Pi) |
割合×成功確率 (qiPi) |
利子率 (要求収益率/qPの合計) |
良い | 0.9 | 0.7 | 0.63 | 1.52 |
悪い | 0.1 | 0.3 | 0.03 | |
合計 |
— |
— | 0.66 | — |
企業家を観察できず成功確率が不明のため両タイプの企業とも一律の利子率となる。
情報が対象のときの企業家の期待収益
企業の質 |
自己
資金 |
外部
資金 |
利子
率 |
成功
確率 |
収益 率 (Ri) |
事業の
期待収益 |
投資家の 期待収益率
|
企業家の 期待収益 (PR(K+B)-ρB) |
良い | 1 | 1 | 1.4 |
0.7 |
2.0 | 2.8 | 1 | 1.4 |
悪い | 1 | 1 | 3.3 | 0.3 | 3.0 |
1.8 |
1 | -1.5 |
質の良い企業は、外部資金を使っても使わなくても1.4の収益。
質の悪い企業は、外部資金を使うと期待収益がマイナスになるので外部資金を使わない。
情報が非対称の時の企業家の期待収益
企業の質 |
自己
資金 |
外部
資金 |
利子
率 |
成功
確率 |
収益 率 (Ri) |
事業の
期待収益 |
投資家への 支払の期待収益 (PρB) |
企業家の 期待収益 (PR(K+B)-PρB) |
良い | 1 | 1 | 1.52 | 0.7 | 2.0 | 2.8 | 1.06 | 1.74 |
悪い | 1 | 1 | 0.3 | 3.0 |
1.8 |
0.45 | 1.35 |
質の良い企業の期待収益は、自己資金のみの場合に1.4、外部資金を使うと1.74となるため、
この数値例では逆選択は起きない。
<前提条件>
1.企業家が事業の質(良い・悪い)を選択できるものとする
2.事業資金全額を外部調達する
3.投資家は企業が選択した事業の質を観察できない(情報非対称)
4.質の悪い事業の方が収益率が高い Rb > Rg
5.質の良い事業の方が成功確率が高く、期待収益も高い PgRg > PbRb
(悪:ハイリスクハイリターン、良:ローリスクローリターン)
とした場合
企業の質 |
外部
資金 |
利子
率 |
成功
確率 |
収益 率 (Ri) |
事業の
期待収益 |
投資家への 支払の期待収益 (PρB) |
企業家の 期待収益 (PRB-PρB) |
良い | 1 | 1.2 | 0.8 | 1.5 | 1.2 | 0.96 | 0.24 |
悪い | 1 | 0.3 | 2.0 |
0.6 |
0.36 |
0.24 |
利子率が右の水準を超えると前提条件5が逆転し、
企業は質の悪い事業を選択することになる。
良と悪の交点の利子率:
=(期待収益の良悪差 ÷ 成功確率の良悪差)
企業の質 |
収益率 (Ri) |
成功確率 |
期待収益 |
投資家の 期待収益 |
|
良い | 1.5 | 0.8 | 1.2 | 1.0 | |
悪い | 2.0 |
0.3 |
0.6 |
|
|
差 | ー | 0.5 |
0.6 |
ー |
└─←── ÷ ──←─┘
事業の実が観察できないためにモラルハザードが発生する。
そのことを事前に推測する投資家は投資しないことになる。
情報の非対称性ゆえに資源配分の非効率が発生している。
情報の非対称性はモニタリングを行うことで緩和できる。