1970年代 マネーストックを政策運営において重視していた。
1980年代 マネーストックの機能が揺らぎ始めた。理由が3つ
・金融自由化、国際化で通貨需要が不安定に
・金融技術や金融商品の発展でmoneynessが曖昧になり、通貨が情勢を反映できなくなった。
・85年のプラザ合意で円高が進む中、マネーストックの伸びるが物価が落ち着いていた。
その結果、日本銀行はマネーストックという量的指標への関心を弱め、
政策金利を操作して物価の安定を実現する手法を取ることになった。
(政策手段)➝(操作目標) ➝(最終目標)
公開市場操作 政策金利の誘導 物価の安定
※誘導型アプローチ
このように政策金利の誘導を操作目標とする金融政策を伝統的金融政策という。
2000年代に入ると主要中央銀行の政策金利がゼロとなった。(日本は1990年代末から)
政策金利が非負制約に直面するなか、操作目標としての政策金利の機能は低下した。
政策金利の誘導に代替する金融政策を非伝統的金融政策という。
(政策手段)➝ (操作目標) ➝ (中間目標)➝(最終目標)
資産の買入 マネタリーベース増加 期待の好転 物価の安定
※2段階アプローチ
➀時間軸政策(フォワードガイダンス)
特定の経済条件が満たされるまでの金融政策の運営方針を
中央銀行が前もって宣言すること。
「将来」を前倒しして「今日」の経済活動に働きかける。(期待)
将来の短期金利(=長期金利)を下げる効果がある。➝金融緩和
宣言を信じさせるためにコミットメントをする 例)インフレターゲティング
時間軸政策の例):1999年4月日銀速水総裁
「デフレ懸念の払拭が展望できるまでゼロ金利政策を継続する」と表明
➁量的緩和
中央銀行の負債(通貨供給)を増やすことを操作目標とした政策。
(マネタリーベースや中央銀行当座預金など)
市場のリスクを吸収することを目的としないため、
無リスク資産である国債の買いオペという形をとることが多い。
目的はポートフォリオ・リバランスとシグナリング効果。
【ポートフォリオ・リバランス】:量的緩和によって銀行の日銀当預は増加するが
無利息なのでリターンが期待できる他の資産に再配分すること
【シグナリング効果】:量的緩和自体をシグナルとして、物価安定の実現に対する
コミットメントを発信できる。
例)2001年3月 金融政策の操作目標を金利から日銀当預に変更した。
しかも消費者物価指数がゼロ%以上になるまでとの時間軸政策も並行して実施した。
➂信用緩和(質的緩和)
伝統的金融政策では買いオペの対象としないリスク資産を買い入れること。
(長期国債、株式、社債など)
目的は市場のリスクを吸収し、各種資産価格のリスク・プレミアムを抑えること。
金利リスク(長期国債)、信用リスク(社債)、流動性リスクを市場から吸収し、
その結果、長期金利や資産価格の安定させ、市場の価格発見機能を向上できる。
例)2013年4月 日銀は異次元金融緩和(質的・量的金融緩和)に踏み切った。
➃マイナス金利
通常は非負制約により金利はマイナスにはならないが、逆に預金に対して
一定率の金利を受け取ることを実質的なマイナス金利を導入している。
目的は、➀ポートフォリオ・リバランスの促進、➁長期金利の抑制、➂円安
導入国は、日本、ECB、スイス、スウェーデン、デンマーク、ハンガリーなど
事実上の通貨切り下げ策との批判もある。
2016年2月 日銀は非伝統的金融政策の4つの類型すべてを盛り込んだ
「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を黒田総裁のもと導入した。
「近代の中央銀行の歴史上、最強の金融緩和スキーム」と自ら評している。
<その内容>
➀消費者物価指数で前年比2%
➁操作目標の金利からマネタリーベースへの変更
➂国債買い入れオペの大幅増額による量的緩和の採用
➃長期国債、ETF、J-REIT、社債、CPなどを買い入れる質的緩和の採用
➄日銀当預の一部にマイナス金利を適用
➅フォワード・ガイダンスの導入
いずれはゼロ金利を終えるとき(出口)が来る。出口で起こり得る
非伝統的金融政策の課題を検討する。
出口策として、金利の引き上げを行った場合、膨大に積み上がった日銀当預のため、
金融機関への利払が急増する。
マイナス金利付き量的・質的金融緩和のもと、額面を上回る価格で国債を買い入れているため、
満期まで保有すると償還損が発生する。売却すれば売却損に直面する。
以上の結果、出口で日本銀行の自己資本が毀損する恐れがある。
発券銀行である日本銀行の自己資本をどの程度重視するかは意見が分かれる。
自己資本不要論の2つの疑問
・健全性が毀損するのは引締め期(つまり出口)。財務の健全性が毀損されたからといって
マネタリーベースを供給すれば出口ではなくなってしまう。
・先進国を中心にマネタリーベースが有利子負債に変わっている。
超過基準の金利引き上げが見込まれ、この利払が健全性を脅かす。
日銀は自己資本を積み増している。
中央銀行の損失の計上の仕方
➀繰延資産の計上 アメリカ、チェコなど
➁自己資本の毀損 日本銀行
自己資本の毀損の形をとっている場合、損失を誰が補償するかが問題となる。
日本銀行法では、政府による損失補償規定はなく、議論されることになる。
出口で金利が高騰すると、多額の債務がある政府は利払い費で逼迫する。
そのため政府が日本銀行の出口策に待ったをかける可能性がある。
金融政策が国債管理政策に取り込まれ、財政従属となる。
日本銀行は、法律で独立性が保障されているが、政策と整合的であることも
第4条で求められている。
非伝統的金融政策は、海図なき航海
非伝統的金融政策の出口は、航海者さえいない未踏の領域
非伝統的金融政策の課題が表面化するのは出口である
クルーグマンが2000年に指摘したもの。
LM曲線は右上がりの線だが、利子率が低く債券を持つメリットを感じられなくなったとき
人々は債券より貨幣を持とうとする。それがさらに進むと所得に変化が生じても
貨幣需要は一定となる。つまりLM曲線の下部が水平になる状態だ。
流動性の罠の状態では、中央銀行が金融緩和してLM曲線が右にシフトしたとしても
IS曲線との交点は変化せずYの増加に結びつかない。
一方で財政政策によるIS曲線の右シフトはYの増加に有効である。
1990年代末からの日本の状況を言い表している。
※WANABLOGさんより↑
Taylar rule 1993年 ジョンブライアンテイラーが提唱。
政策金利の適正値をマクロ経済の指標によって定める関係式。
政策金利 = インフレ率+0.5×(インフレ率-目標インフレ率)+0.5×(成長率-潜在成長率)+実質金利
現在のインフレ率が目標インフレ率を上回るほど、また、
実質国内総生産(GDP)成長率が潜在GDP成長率(需給ギャップ)
を上回るほど引き上げられ、
反対にそれぞれの値が下回るほど引き下げられることになる。
公式中に0.5が2つあるが、これは政策反応パラメータであり、可変的な項となっている。米国でテイラー氏が本ルールを提唱した際は、1.5と0.5が設定されていた。このパラメータを具体的にどう設定するかは、分析の対象となる国の経済構造等によって異なる。
【GDPギャップ】:需給ギャップともいう。経済全体の総需要と供給力の差のこと。
総需要は国内総生産(GDP)と同じで、供給力は国内の労働力や製造設備などから推計。
需要<供給力 のとき、需給ギャップはマイナスになる。
設備や人員が過剰で物余り。デフレギャップという。
逆に、供給力<需要のとき、需給ギャップはプラスになり、
物価が上がる原因になる。これをインフレギャップという。
需給ギャップは市場メカニズムがうまくいっていないときに大きくなり、
それを解消するためには、政府が景気刺激策などで需要を調整する必要があります。